最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 ほんのりと彼の頬が赤く染まっているように見えるのは、暖炉の炎のせいではない。リーゼもまた、落ち着かない気持ちになってうつむいた。

 すると、首飾りをサッと手に取ったシルヴィオが、ぶっきらぼうに腕を突き出す。

「つけてくれないだろうか? この首飾りは、必ずや俺を守るだろう。一生外さないと誓う」

 なんて大げさなのだろう。
 リーゼは戸惑うが、決して手を引っ込めないシルヴィオに負けて首飾りを手に取り、次の瞬間には茶色の目を大きく見開いていた。あろうことか、彼がリーゼの前にひざまずいたのだ。

「シルヴィオ様……、顔をお上げください」

 とっさにリーゼもひざを折った。

 この人は自分が何をしているのかわかっているのだろうか。

 ラグローリア国でもっとも剛健さと高潔さを兼ね備えた騎士団の団長である彼が、たったひとりの小娘に下げていい頭などないはずだった。

「何を慌ててるんだ?」

 彼は愉快そうに目もとを緩めた。

 リーゼはハッとする。
 彼が敬意を持って接してくれるのは、自身がヴァルディエ公爵令嬢だからだ。農村生まれのリーゼにではない。

「あ……、い、いいえ。首飾りを、おつけしてもいいですか?」
「もちろん」

 リーゼはためらいながらも、彼の首の後ろに手を回した。
 腕や肩に触れる銀の髪が、どうにかこうにか留め具をつけているうちに頬に触れてくる。豪胆であるはずの彼の髪は柔らかで、内面はとても温厚なのでは、と錯覚してしまう。
 いや、おそらく思い違いではないだろう。少なくとも彼は、リーゼ・ヴァルディエに敬意と愛情を持っている。たとえそれが、偽物であろうとも。

「で、できました」

 リーゼが手を引っ込めると、シルヴィオは胸元に首飾りが収まっているのを確認して、あごをあげる。
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