最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
第三章 騎士団長は鳥のさえずりさえ許さない
***


 シルヴィオ帰還から数日が過ぎた。
 外は今にも雪が降り出しそうな空模様だったが、屋敷の中は、以前とは比べものにならないほど温かい空気に満ちていた。

 リーゼは自室のソファに腰かけていた。
 結婚の際、ヨウムのフィンと過ごせる部屋が欲しいと願い出た。シルヴィオは、そんなことはささいな願いだと言って、南向きの部屋を与えてくれた。
 それ以来、ほとんどの時間を自室で過ごしている。

 手元には、編みかけの毛糸がある。
 公爵令嬢として如才なく振る舞えるよう、アルブレヒトは彼女に語学やダンス、絵画などさまざまな習い事をさせたが、どれも彼の要求を満たす仕上がりにはならなかった。
 けれど、母がそうであったように、編み物だけは得意だった。今は日がな一日、夜遅くまで書類に目を通しているシルヴィオのために、ひざ掛けを編んでいる。

 リーゼは手を止め、窓際の鳥籠へと目を向けた。さっきまで目をつむっていたフィンが、興味津々といった様子で外を見つめている。

「外に何かあるの?」

 問いかけながら立ち上がり、窓の外を覗き込む。

 溶けきらぬ雪の積もる中庭に、一つの人影を見つけた。
 休暇中だというのに、シルヴィオが黙々と剣を振るっている。

 白銀の世界できらめく髪。決して大男ではないのに、鍛え抜かれた背中は気迫に満ちて大きく見える。
 空を斬る音が聞こえてきそうなほどの緊迫感に息をのんでいると、ふとシルヴィオがこちらに鋭い目を向けた。
 そして、窓越しのリーゼに気付くと、嘘のように殺気を消し、表情を和らげた。

 剛健な騎士が、自分を見て微笑んでいる。公爵令嬢でなければ、あり得なかった光景だ。

 リーゼは戸惑いながら、小さく手を振った。そうしている自分が不思議でもあった。
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