最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 いずれ、アルブレヒトはシルヴィオを使ってレナートを失脚させるだろう。その手助けをしている自分が、彼とほがらかな時間を過ごしているのは、ひどく滑稽なことのような気がした。

 手を引っ込めると、シルヴィオは剣をしまい、中庭から姿を消した。

「もう鍛錬は終わりなのかしら?」

 ひとりごとのようにつぶやく横で、フィンが同じように首をかしげている。
 なんだかおかしくなって、口元に手を当てて笑ったそのとき、いきなり部屋の扉が開いた。

「シ、シルヴィオ様っ?」

 ついさっきまで中庭にいたはずのシルヴィオが、息切れ一つしないで駆け寄ってくる。

「あなたの姿が見えたから来てみたのだ。退屈してるのではないか?」
「いいえ、退屈だなんて……」
「そうか? 俺が遠征中も、一日中ここで過ごしていたと聞いた。退屈ならば、パーティーの一つでも開かねばとは思うのだが」

 シルヴィオはソファーに置かれた編み物に視線を移す。
 それしか取り柄のない妻を、彼こそ退屈に感じているのではないだろうか。
 身体が弱いことを言い訳に、リーゼは社交界に出たことがない。公爵令嬢とはいえ、ヴァイス伯爵家に何の益ももたらさない。そんな妻でも、少しは役に立ってもらわねばと思うのは当然だろう。

「……本当に、退屈などしていません。私には、ほら……フィンがいますし」

 鳥籠に目を向けると、フィンは止まり木を行ったり来たりしている。
 フィンは警戒心が強い方だが、慣れないシルヴィオがいるにもかかわらず、機嫌が良さそうだった。

「エルナから聞いた。フィンは人間の言葉を真似て、メイドたちを笑わせているそうだな。あなたもさぞかし、俺といるより楽しいのだろう」

 面白くなさそうに言うと、シルヴィオは目をそらす。
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