最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 覚えていることが一つだけある。それは、フードを目深にかぶった少年のことだ。

 公爵邸に連れてこられて、一年ほど経ったころだった。庭に茂る樹々の根もとで倒れる鳥を見つけた。その灰色の鳥を服の中に抱きかかえ、幼いリーゼは部屋へと運んだ。

 メイドたちに見つからないよう、毛布に包んで、自分の食事からパンを分け与えた。そうするうちに、飛べるほど元気になった。
 窓の外へ放してみたが、鳥はすぐに舞い戻ってきてリーゼの肩に乗った。

 何日かして、こっそり鳥の世話をしていることをアルブレヒトに知られたが、なぜか、飼うことを許された。
 今思えば、スパイに役立つと見込んでいたからだろう。

 弟が生まれる前から飼っていた犬の名前と同じ、フィンと名付けた。
 それからリーゼは時折、フィンを連れて中庭で遊ぶようになった。

 あの少年に出会ったのは、すっかりフィンがリーゼになついたころだった。

 少年は異国から連れてきた鳥を探していると言っていた。なんでもその鳥は、貴族の屋敷へ運ばれる荷から逃げ出したらしい。そして、ヴァルディエ公爵邸の方へ飛んでいくのを見たものがいると。

 リーゼはフィンを手放したくなかった。しかし、貴族の所有する鳥だとわかった以上、返さなければならないことも理解していた。

 ぶるぶると震えながら、フィンを両手のひらに乗せて差し出した。
 少年の手に渡ると、フィンはふしぎそうに首をかしげていた。

 もう二度と会えなくなる。やっとできたお友だちなのに。

 そう思ったら、ぽろぽろと涙があふれた。
 両手で顔を覆い、足もとに座り込んだ。すると、立ち去ったはずの少年が戻ってきた。

 彼は涙をぬぐうリーゼにフィンを差し出し、こう言った。
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