最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
「レナートがこの件に少々疑問を持っていてな」
「レナート様が?」

 ヒュッと息を飲むと、シルヴィオは小さく「ああ」と息をつき、リーゼの肩を抱き寄せた。

「怖がらせたようだ。この話はここまでにしよう。ヴァルディエ公爵があなたに何も言わないのも、怖がらせまいとしてだろう」

 リーゼはぎゅっと彼の胸元をつかんだ。

 聞きたいことはまだある。これを逃したら、彼はもう二度と教えてくれないかもしれない。

「エルラントはどうなっているのですか?」
「今は荒廃した街だけがあると聞く」
「街が……あるのですね?」

 もしかしたら、弟のリヒトはそこにいるかもしれない。
 リーゼの胸に希望と不安が渦巻いていく。

「反乱軍に関わらなかったエルラントの民が、細々と暮らしているはずだ。生かさず殺さずのやり方で、ヴァルディエ公爵が統治している」
「生かさず……」
「あなたの父上は、ふたたび反乱を起こさぬよう、農具以外を取り上げ、エルラントで育つ穀物を税として徴収し、輸出しているんだ。……あなたには悪いが、あの御仁が冷酷無比と言われるのは、それが所以だ」

 シルヴィオは優しくリーゼの背中をなでた。

「私……何も知りませんでした」

 顔をあげると、シルヴィオがそっと顔を寄せてくる。
 優しく触れてくる唇に、ほっとする。まぶたを閉じたら流れる涙を、ぬぐい取ってくれる指先にも。

 今こうしているときも、リヒトは血のにじむ手で農具を握りしめているかもしれないのに、シルヴィオとの口づけに、罪悪感が薄まっていく。

「リーゼ……、あなたは何も知らなくていい。余計なことを話したな」
「そんなことは……。公爵の娘として、私だって……」
「あなたには、俺のことだけを考えていてほしい」
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