最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 ふたたび、深く唇が重なってくる。
 ソファの背に押し付けられ、もどかしそうにドレスのひもを探る彼の手に、リーゼは身をすくめる。

「あ、あの……、まだ夜ではありません……」
「夜でないといけないなんて誰が決めたんだ?」

 何を言い出すのかとリーゼが口をわなわなさせると、頭上からしわがれた声が降ってくる。

「リーゼ、トモダチ。……トモダチッ」

 鳥籠の中でばたつくフィンを軽く睨んだシルヴィオは、立ち上がると、檻の隙間に差し込んだ指で、ちょんとフィンの頭をなでた。

「リーゼをいじめていたわけじゃない」
「ンー……?」

 首をかしげるフィンを見て、シルヴィオが声を立てて笑ったとき、扉をノックする音が聞こえた。

「何用だ?」
「奥様に、ヴァルディエ公爵閣下よりお手紙が届いております」

 シルヴィオがちらりとリーゼを見やる。リーゼはあわてて、髪が崩れていないか手を当てた。さいわい、どこも乱れていなかった。

「……入れ」

 彼が命じると、手紙を携えたエルナが部屋へと入ってきた。
 シルヴィオは封蝋と筆跡を確認し、確かにアルブレヒトからの手紙だとわかると、リーゼに手渡した。

 リーゼは何食わぬ顔でそっと手紙を開けた。シルヴィオに知られたらいけないような内容なら、アルブレヒトが手紙で寄越すことはないとわかっていた。
 やはり、中身は当たり障りのない挨拶と、簡潔な用件のみだった。

「……お父さまが屋敷へ来るように、ですって」
「いつ?」
「明日です」
「明日はレナートと約束があるんだが……」

 シルヴィオはほんの少し渋い顔をする。

「私ひとりで参ります。お父さまも私に用があるとのことですから」

 リーゼは手紙をシルヴィオに渡した。
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