最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 シルヴィオが明日、レナートの屋敷へ出かけることは、今朝、フィンを通じて知らせていた。だからこそ、アルブレヒトはすぐに手紙を寄越したのだろう。

 つまり、リーゼひとりでヴァルディエ公爵邸へ来いとの指示に他ならない。

「そのようだな。悪いが、ひとりで行ってもらえるだろうか。レナートとの約束は外せない」

 手紙に目を通したシルヴィオは、苦渋の決断をしたかのような表情をする。

「かまいません。シルヴィオ様がお帰りになる前には帰りますね」
「俺にかまわず、ゆっくりしてくるといい。何かと、あなたのことを心配しているのだろう」
「ありがとうございます」
「では、馬車と護衛はこちらで用意しよう。エルナ、シモンにも連絡だ。ついてこい」

 シルヴィオはてきぱきと指示を出すと、エルナを連れて部屋を出て行く。次第に足音は遠ざかり、聞こえなくなった。

 室内が静寂に包まれると、リーゼは息をつき、フィンを鳥籠から出してそっと背中をなでた。そうすることで落ち着いた。

 次なるアルブレヒトの策略は何だろう。シルヴィオの身に危険が及ぶようなことだったらどうしよう……。

 彼を裏切り、父の命令に従っている自分が、不安になる資格なんてないのかもしれない。

 なぜ、こんな気持ちになるのだろう。

 リーゼはぼんやりと曇り空を見上げた。
 その空のつながる先の大地で、リヒトは今も苦しんでいるかもしれない。

 それなのに、頭のどこかで、ひとりの男の未来を案じてばかりいる。

「ねぇ、フィン。……私、シルヴィオ様を愛しているのかしら」
< 35 / 95 >

この作品をシェア

pagetop