最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 リーゼは背筋を伸ばすと、従者を連れて大きな門をくぐった。

 玄関ホールで出迎えたのは、数人のメイドたちだった。
 その誰もが、本物のリーゼ・ヴァルディエを知らない。リーゼがここへ連れてこられた後、新しく雇われた者たちばかりだからだ。

「お帰りなさいませ、お嬢様」
「……お父さまは?」
「応接間でお待ちです」

 リーゼは従者たちにエントランスで待つよう伝えると、メイドとともに応接間へと向かった。

 長い廊下を歩く足音が、不気味なほど静寂な空間に響いていく。多くの使用人がいるはずなのに、やはりこの屋敷はどこか陰鬱としていた。

 メイドが重厚な扉の前で足を止める。扉をノックすると、「来たか」と低い声が聞こえた。

「お嬢様をお連れしました。お通ししてよろしいでしょうか?」
「入りなさい」

 扉を押し開いたメイドが、深く頭を下げる。リーゼはごくりと唾を飲み込むと、覚悟を決めて足を踏み入れた。

 アルブレヒト・ヴァルディエは窓辺に立っていた。白髪交じりの髪に、華美な刺繍のコートを身にまとい、猛禽類のような鋭い目でこちらを振り返る。

 彼にとって、リーゼは実の娘ではない。野心のために利用できる捨て駒でしかない。嫌悪感をむき出しにした目は、蔑む色を帯びていた。

「下がれ」

 アルブレヒトが短く命じると、メイドは一礼し、逃げるように部屋を出て行った。その様子を見た彼は、面白くなさそうに「ふんっ」と鼻を鳴らすと、リーゼをじろじろと眺めた。

「あの男とはうまくやっているようだな?」
「……は、はい。シルヴィオ様は何もお疑いになることなく過ごしています」

 リーゼはひざを折って頭を下げ、恐る恐る口を開いた。

「ならばなぜ、帰還の知らせがなかったのだ?」
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