最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
「も、申し訳ございません。一刻も早く帰還するため、すべての手続きを後回しにしたと聞き及びました。お父さまが陛下に謁見すると知り、急いでお帰りになったわけではありません」
「だから、自身に非はないと?」

 杖を床に打ち付けながら、アルブレヒトが近づいてくる。

「そうは言っておりません。謁見が叶わなかったことは、すべて私の責任です」

 コツッと、目の前で鳴った杖がぴたりと止まる。

「重要な謁見であったことは理解しているか?」
「……もちろんです。レナート公爵様の周囲に、王位簒奪(さんだつ)を企てる勢力ありと……陛下のお耳に入れるはずでした」

 リーゼはぎゅっと目を閉じる。

 気づいてしまった。アルブレヒトの計画に。
 その勢力こそが、シルヴィオ──いや、アルブレヒトは、反乱軍の証である暁の紋章が刻まれた指輪をシルヴィオに持たせることで、レナートを簒奪者に仕立て上げようとしたのだ。

 しかし、その計画はリーゼが潰してしまった。それを、アルブレヒトが知らないはずはない。

「よくわかっているではないか。……ところで、シルヴィオ・ヴァイスの弱みはつかめたのか? まさか、あの男にほだされて、弟のことなど忘れているわけではあるまいな?」
「忘れることなどできません。お父さま……、本当に弟……リヒトは、リヒトは無事なのですか?」

 顔をあげると、冷酷な目がこちらを見下ろしていた。

「計画がうまくいけば、無事である証拠を見せよう。少しぐらい、私の役に立ってみせてみろ」
「わかっています……」

 震える声で答えると、アルブレヒトの目の色が変わった。

「何がわかっているだと?」
「お、お父さま……?」
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