最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
第四章 秘密の裏切りはあなたへの愛でした
***


 重厚な執務机に腰を据えるレナート・ブラッツは、入室するシルヴィオを見るなり、にやにやと笑みを浮かべた。

「やあ、新婚生活はどうだ? あの氷の騎士が、新妻の前では溶け切っているとのうわさだが?」
「……からかわないでください」

 シルヴィオはあきれながらため息をつき、陽の差し込む執務机の前へと進み出た。

 王都の中心に構えるブラッツ公爵邸は、光が降り注ぐように明るく、洗練された雰囲気がある。どこか陰惨としたヴァルディエ公爵邸とは対照的だ。

 若き公爵であるレナートは華やかな男だが、その口調は気安く、平民育ちの自分にも友好的な男だった。
 しかし、シルヴィオは知っている。この男が油断にならないほどの辣腕ぶりで、国王陛下の信頼を得ていることを。

 だからこそ、リーゼの話題を出したのには必ず意味があると、警戒するほどに身を引き締めた。

「……それで、私をお呼びになった理由は?」
「そうも急くな」

 レナートはうっすらと笑みを浮かべたが、机の上で指を組み合わせると、鋭い眼光でじっとシルヴィオを見上げた。

「リーゼ嬢の方はどうだ?」
「……と言いますと?」
「おまえに言うのも酷な話だとは思うが……、リーゼ嬢が何かを企んでいるのは間違いないとの情報がある」

 シルヴィオは眉間にかすかなしわを寄せたが、すぐさま否定する。

「あり得ません。リーゼは遠征中も屋敷におりましたし、ヴァルディエ公爵との接触はありません。閣下がこの結婚に反対だったのは知っていますが、彼女は……」

 話を遮るように、レナートは手を挙げた。
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