最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
「シルヴィオ様だわ」

 リーゼは素早くエルナの手からナイトドレスをひったくると、頭からかぶった。
 ふわりとした布地が、痛々しいあざを覆い隠す。それでも安心できず、リーゼはエルナの手を強く握りしめ、真剣な眼差しで懇願した。

「このことは、シルヴィオ様に言わないで。……余計な心配はかけたくないの」
「奥様……」
「お願いよ、エルナ」

 じっと見つめると、エルナは戸惑いをあらわに瞳を揺らしたが、とうとう小さくうなずいた。

「……承知いたしました。でも奥様、お薬だけはご用意させてください」
「ええ、わかったわ」

 リーゼがうなずき返したとき、寝室のドアが開き、シルヴィオが姿を見せた。
 一礼して部屋を出ていくエルナを見送った彼は、腰から外した剣を壁の留め具にかけて、少々困ったような顔を見せた。

「まだ起きていたのか。先に寝ているよう、連絡すべきだったな」
「私が待ちたいとわがままを言ったんです……」

 シルヴィオの視線が胸元で止まる。わずかに気まずいような顔を見せるから、リーゼは不思議に思いながら鏡を見た。
 まだ結ばれていなかった胸元のリボンに気づき、あわてて結び直す。そうするうちにシルヴィオが背中に腕を回して抱き寄せてきた。

「ヴァルディエ公爵閣下はお元気であられたか?」
「……は、はい。シルヴィオ様の無事の帰還をとても喜んでおりました」

 嘘をついてしまう自分を情けなく思いつつ、いつか嘘がばれてしまうのではないかと心配で、胸が早鐘を打つ。
 その拍動が伝わってしまうのではないか。居心地の悪い気持ちになりながら、黙ったままのシルヴィオを見上げると、彼は小さな息をついた。

「今夜も冷える。先にベッドに入っていろ」
「……はい」

 リーゼは言われるままに、すぐにベッドの中へもぐり込んだ。
 シルヴィオは上着にズボン、ブーツを次々と脱ぎ、シャツ一枚になると、ためらいもなく隣へ横たわり、リーゼの胸元のリボンを軽くつまんだ。
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