最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
「あ……、あの……っ」

 リーゼはとっさに前身をかき集め、サッと背を向けた。

「きょ、今日は……その、あまり……」

 身を丸めると、シルヴィオが後ろから優しく抱きしめてくる。耳たぶに触れる唇は冷たかったが、髪をかきわけるようにして首筋に落ちてくる間に熱くなっていた。

 彼はいつものようにしているだけだったが、リーゼはますます身を固くした。この醜悪な背中のあざを知られたくなかった。

 この仕打ちを知られたら、自身がシルヴィオと結婚できるような身分の女ではないことがばれてしまう。
 そうなったらもう、弟を救えないし、シルヴィオの愛情すら、二度と得られなくなるだろう。

 私は愛されたいのだ。シルヴィオから。たとえ、政略的な結婚だったとしても、それを甘んじて受け入れた彼に期待してしまっている。こんな私でも、愛してもらえるんじゃないかって。

「あまり、焦らすな……」

 胸元に滑り込んできた指先が、リボンの結び目をほどいていき、迷いなくドレスをずり下げた。

 ほんのわずか、息を飲むような気配がした。

 リーゼはぎゅっと目を閉じ、萎縮するようにますます背中を丸めた。沈黙が怖かった。

 シルヴィオの顔が怖くて見られない。シーツに顔を押し付けてじっとしていると、冷たい指先がするすると背中をなでた。

「リーゼ……」

 小さくつぶやいたかと思うと、あろうことか彼は、醜いあざの上に口づけを落としてきた。まるで慈しむように優しく触れてくる。醜いものすら、彼女のものなら愛せるとばかりに。

「あなたにだけは、かくしごとをされたくないんだ」
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