最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 半年ごとに、ヴァルディエ公爵家とブラッツ公爵家は王命を受け、総司令官として軍を率いる決まりとなっていた。

 これまで、ブラッツ家はシルヴィオ率いる第一王国騎士団に全権を委譲し、一任していたが、リーゼとの結婚により、ヴァルディエ家もまた、その義務のすべてをシルヴィオに押し付ける気なのだ。

 どこまでも彼を利用し尽くすつもりの父にリーゼは不快感を覚えたが、自身が怒る道理もないのはわかっていた。

「ほんの少しでも、あなたといられる時間を大切にしたいのだ」
「私との……?」
「意外そうだな。……仕方がないか。何も言わずに戦地へ向かったのは、俺だ」

 シルヴィオはリーゼの頬をざらりとした指先でなでた。

 この荒れた手には、彼の背負う苦労が刻まれている。これからも彼は、想像を絶する覚悟で戦地へ向かい、武功を立てるだろう。

 レナート公爵に引き立てられ、ヴァルディエ公爵の娘婿として待ち受ける、順風満帆なこの男の未来に、リーゼは絶望せずにはいられない。

「なぜ泣きそうな顔をする?」
「春はすぐに来ます。……長くは一緒にいられないと言ってるようではありませんか」

 リーゼはあわてて取り繕うが、シルヴィオは何も疑わない優しさを帯びた目で見つめてくる。

「このように美しい公爵令嬢と結婚できたのだから、あなたのために俺は天寿を全うすると約束しよう」
「本当……ですか?」
「約束は守る男だ」

 シルヴィオはわずかに目を細めると、逃がさないとばかりにリーゼの腰を引き寄せ、唇を塞いだ。

 最初はリーゼの気持ちを確かめるように優しく、次には自身の欲望を満たすように深く……。

 結婚式後、形ばかり交わした口づけとは違う。あまりに情熱的で……胸の内から込み上げてくる感情のうねりが、シルヴィオの熱い息と交わり、破裂しそうだった。

 なぜこんな気持ちになるのかと、リーゼが苦しくなる胸をつかんだとき、彼は名残惜しそうに唇を離した。

「メイドたちには決して不自由させないよう頼んでおいたが、不便はなかったか?」
「え、……ええ」
「願いがあれば、なんでも遠慮なく話すといい」
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