最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」

 エルナが部屋を出ていくとすぐに、リーゼは自室へと向かった。

「フィンっ、仕事よ」

 部屋へ入るなり声をかけると、リーゼの役に立てることがうれしくてたまらないとばかりに、フィンは翼をバタバタさせた。

 ほどなくして運ばれてきた朝食のナッツをフィンに分け与え、急いで羽根ペンを手に取った。

 食事をさげるように言わなければ、メイドたちがここへやってくることはない。時間は十分にある。しかし、白い紙にペン先を落とす手は震えていた。

 これは、アルブレヒトの計画を破綻させようとしている夫を裏切る行為だ。

 この手紙が父の手に届いたとき、何が起きるかは想像できていない。そのぐらい、大それたことをしようとしている。

 リーゼは意を決して、ペン先を走らせた。

『計画、露見の恐れあり。陛下への奏上(そうじょう)、間近』

 これだけ書けば、アルブレヒトなら察して動くだろう。

 落ち着けとばかりに、リーゼは深く息を吸って吐き出すと、小さく丸めた紙片を筒に入れ、フィンの足に結びつけた。

「フィン、行って。お父さまに必ず、会うのよ」

 まるで、勇敢な騎士のような目をしてうなずくフィンを、リーゼは祈るような気持ちで空へと放った。

(シルヴィオ様……、こうするしかできない私を許して……)

 次第に小さくなるフィンを見つめながら、リーゼは指を組み合わせ、祈った。

 シルヴィオなら、きっとアルブレヒトの野望を打ち砕いてくれる。けれど、弟を見殺しにすることはできない。

(リヒトは私が守らなきゃ。だから……どうか、シルヴィオ様もご無事で……)

 シルヴィオは信じてほしいと言った。だからこそ、スパイとしての役目を果たすのだ。彼がすべてを終わらせてくれると信じているから。
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