最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 リヒトがどうなったのか詳しくは知らない。ただ、『おまえの弟は生きている。助けたければ、言うことを聞け』と、冷たい目をしたアルブレヒトの言葉を信じて生きてきた。

『リーゼ、大丈夫よ。……あなたならリヒトを助けられるわ』

 頭の中に優しい母の声が聞こえた気がして、落ち着きを取り戻したリーゼは、ロケットをそっと開いた。

「これは……」

 中には、15本の線が刻まれていた。

(もしかして、リヒトが年の数だけ刻んで……?) 

 そうだとしたら、13年前に生き別れた、当時2歳だった彼の年齢と合致する。

 リーゼはわずかに希望を見出し、筒の中をのぞき込んだ。

 中に入っている紙を引っ張り出す。それは、三つ折りにされた一枚の手紙と、上質な封筒だった。手紙を開くと、そこには硬質なアルブレヒトの文字があった。

『リヒトが生きている証拠は渡した。同封の手紙を告発状とすり替えろ。目的を達した日にはリヒトを解放すると約束しよう』

 リーゼは次に、封筒を開いた。中には、陛下に上奏(じょうそう)する際に使う一般的な便箋と同じものが入っていた。しかも、そこに書かれた文字の筆跡は、シルヴィオのものとそっくりだった。

 さらにその内容に、リーゼは愕然(がくぜん)とした。レナート・ブラッツ公爵こそが、王位簒奪を狙う首謀者だと記されていたのだ。

「これを……入れ替えろですって……?」

 それでは、シルヴィオがレナートを告発することになる。

 それはダメだ。この手紙が陛下の手に渡れば、レナートは処刑され、無実の罪を着せたシルヴィオも無事では済まないだろう。

 しかし、やらなければ、リヒトは殺される。だからこそ、アルブレヒトは生きている証拠を寄こしてきた。失敗すれば、リヒトの命はないと。

 リーゼは絶望で目の前が真っ暗になりながらも、もう後戻りはできないのだと、ロケットを強く握りしめた。
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