最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
「……そういうわけで、閣下にはお会いできないかもしれないからな、昔馴染みの侍従長に頼んで、陛下の散歩の時間に会わせてもらうつもりだ」
「そのようなことができるのですか?」
「俺一人ならな。陛下もたまには話し相手が欲しいのだろう」

 たびたびレナートが王城へ出かけているとは聞いていたが、非公式に何度か陛下に会っているのだろう。シルヴィオもそのようにして会うつもりなのだ。

 なかなか陛下に会えないと嘆いていたアルブレヒトは、よほど警戒されているのだろうか。しかし、なぜ。陛下との対立姿勢はまったく取っていないはずなのに。

「旦那様、……申し訳ございません」

 寝室へ姿を見せたエルナが、肩身が狭そうな表情をして頭を下げる。

「どうした?」
「旦那様の愛馬が、どうもご機嫌斜めのご様子で……。厩舎(きゅうしゃ)から出ようとせず、厩番(うまやばん)が手を焼いているそうです」
「何かあったのか?」
「なんでも、薄汚れた鳥が出入り口の梁に陣取って、馬が通ろうとするたびに翼を広げて威嚇するのだとか。追い払おうとしても、すばしっこくて捕まらないそうで……」

(フィンだわ……)

 リーゼは口もとを引き締める。出発の時間稼ぎをするよう、フィンに頼んだが、うまくやってくれたみたいだ。

「困ったものだな。わかった、俺が行こう」

 シルヴィオがあきれたように鼻を鳴らし、扉へ向かう。

「リーゼ、あなたはここで待っていなさい」

 彼は一度振り返り、そう言い置いて、エルナとともに部屋を出ていった。

 パタンと静かに扉が閉まる。足音が遠ざかるのを待って、リーゼはテーブルの上に置かれた革の鞄に目を移す。

 その鞄の中に、シルヴィオがしたためた書状が入っている。

(……今よ、リーゼ)

 勇気を奮い立たせるように心の中でつぶやくと、ごくりとつばを飲み込んで鞄を開いた。
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