最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 そこには、封蝋がほどこされた一通の封筒が入っている。それを取り出し、テーブルの上に置く。そしてリーゼは、震える手でスカートの中に隠していた封筒を取り出した。

 アルブレヒトから渡された、偽の告発状だ。昨夜、シルヴィオが寝入ったあと、まったく同じ封筒に封蝋をした。並べてみると、本物と見分けがつかない仕上がりになっている。

 これを入れ替えれば、リヒトは助かる。
 その代わり、レナートは断罪され、シルヴィオも破滅するだろう。

 リーゼは二つの封筒を見つめ、やがて、偽の書状からそっと視線をそらすと、もう片方を手に取った。

(リヒト……あなたは必ず、私が助けてあげるからね)

 ぎゅっと苦しくなる胸に手を当てたとき、こちらに近づいてくる足音に気づいた。

 リーゼはあわてて封筒を鞄にしまい、もう片方をスカートに戻す。ほどなくして、シルヴィオが姿を見せた。

「待たせたな、リーゼ」

 ちらりと、シルヴィオが彼女の抱える鞄に目を移す。

「い、いいえ。このままご出発ですよね? 鞄を今、お持ちしようと思っていたんです」

 鞄を差し出しながら、強張りそうになる頬に力を入れて、努めて明るく微笑む。

「馬のほうは大丈夫でしたか?」
「ああ。俺が行ったときには、もう鳥はいなくなっていたよ」
「どこからか迷い込んでしまったのかもしれませんね」

 フィンは今ごろ、部屋へ戻っているだろう。ほっと胸をなで下ろす。

「あまり見たことのない鳥だったようだ。次に見かけたら、捕まえて飼うとしよう。あなたは鳥が好きだからな」

 シルヴィオは冗談交じりに言い、屈託のない笑みを見せたあと、くるりと背を向けて歩き出す。

「では、行ってくる」
「……お気をつけて」
「ああ」

 その強い決意を見せた背中を、リーゼは複雑な思いで見送った。
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