最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 明日が来るのが怖い──

 けれど、シルヴィオの帰宅を待つ時間は、一生夜が来ないのではと、おびえるほどに長かった。

 馬のいななきが聞こえて、リーゼはソファからハッと立ち上がる。フィンは目を閉じてゆっくり休んでいたが、同じように顔をあげた。

 窓に駆け寄ると、薄暗い空の下で馬から降りるシルヴィオの姿が見える。いつの間にか、夜が訪れていたようだ。

 突然、扉がノックされ、リーゼは「どうぞ。入って」とかすれた声で返事をした。今更、喉がからからに渇いているのに気づいた。

「奥様、旦那様がお帰りになりましたが、お夕食はどちらでなさいますか?」

 部屋の中へと進み入ってきたエルナが尋ねてくる。

「そ、そうね。こちらへ運んでくれるかしら? シルヴィオ様はお疲れでしょう。すぐにお休みになるでしょうから、寝室を温めて、お風呂の準備もお願いします」
「かしこまりました」

 エルナは一礼するとすぐに部屋を出ていった。
 ほっと息をついたのも束の間、入れ違うようにして、シルヴィオが顔を出す。疲れた表情をしていたが、それでもどこか、使命を全うした充足感に満たされているように見えた。

「シルヴィオ様、おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま。夕食はまだだと聞いた。いつもあなたは俺に合わせてくれているのだな」
「し、心配しているのです。のんきに休んでなどいられません」

 ほんの少し目をそらすと、シルヴィオの手が伸びてきて頬に触れる。
 そのまま顔をのぞき込まれて、リーゼは息を飲む。その、どこか探るような、ひどく冷静な目に、どうしようもない不安が湧きあがり、焦燥感が募ってくる。

「何をそんなにも心配する必要がある? レナートにあらぬ疑いがかかっている。先導者の調べに尽力を、と陛下にお願いしただけだが?」
「そ、それは……」
「その先導者が、アルブレヒト・ヴァルディエだと、あなたは知っているからではないか?」
「まさか……」
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