最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
「あなたにここまで巧妙なことができるとは思ってない。あなたに指図できるものがいるとしたら、それはヴァルディエ公爵しかいないだろう。なぜ、あなたはあの男の言いなりになる?」

 リーゼは絨毯(じゅうたん)の上に爪を立てると、締まる喉から声を絞り出した。

「お父さま……だからです。父の命令は絶対だからです」
「だが、あなたはこれを俺の鞄には入れず、燃やして捨てようとした。それはなぜだ?」

 突きつけられる焦げた紙切れから、目を背けずにはいられなかった。

「あなたの行動には不可解なことが多い。フィンを使って公爵と連絡を取りながら、俺を一度だって裏切らなかった。それなのに、なぜかばう?」
「お父さまをかばってなど……」

 真実は言えない。弟が人質になっていると言えば、自身の素性がばれてしまう。……いいや、そんなことはどうでもいい。
 アルブレヒトの策略が露見している以上、いずれ、レナートは動くだろう。そのとき、シルヴィオを巻き込まずにリヒトを助けたい。それだけだ。

「言えない何かがあるのか?」

 シルヴィオの瞳は真摯だった。もどかしそうで、悔しげで、それでも絶望しない強さがあった。

「……言いたく、ないのです」
「俺には言えない理由か。……そうか」

 スッと熱が冷めたように、シルヴィオは目をそらした。

 見限られたのだろうか。……当然だ。けれど、胸が痛い。彼を失う怖さが襲ってくる。それはわがままだ。わかっているのに苦しい。

「ならば、人間の言葉を話す相棒に聞くまでだな」

 リーゼがハッと顔を上げると、シルヴィオは鳥籠に近づいた。何をする気だろう。

「フィン!」

 叫ぶと、彼の背中にすがりついた。
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