最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 ヴァルディエ公爵に鳥を探させてほしいと頼んだが、無碍(むげ)に断られてしまったらしい。

 シルヴィオは迷うことなく引き受けた。

 ヴァルディエ公爵邸は広大で、衛兵による厳重な警戒があるにもかかわらず、使用人たちが暮らす家のある裏庭が手薄なのは知っていた。何度か、リーゼに会えないものかと様子を窺ったことがあるからだ。

 深々とフードをかぶり、使用人のふりをしてまんまと忍び込んだシルヴィオは、中庭でリーゼを見つけた。

 そこにいたのは、葬儀のときのような、今にも消え入りそうな少女ではなかった。

 灰色の鳥をひざに乗せ、愛おしげに目を細め、鈴が鳴るように笑っていたのだ。
 鳥と戯れるその姿はまるで、知らない世界の天使のようだった。

 その笑顔を誰にも渡したくないと、少年だったシルヴィオは、強く思ったのだった。

 十数年を経て、その彼女との結婚話が出たときは、血が湧き立つほどの喜びだった。

 身に余る結婚ができたのは、身体の弱いリーゼの結婚がうまくまとまらず、シルヴィオに婚約者がいなかったからだ。

 レナートは『ヴァルディエ公爵が何か企んでいる』と忠告したが、そんなことはどうでもよかった。

 たとえ罠だとしても、彼女が手に入るなら構わない。すぐに結婚を承諾した。

 彼女はあの日、中庭で出会ったことを忘れてしまっていたが、シルヴィオにとってはそれもささいなことだった。

 リーゼが妻であり、自身が彼女を守れる立場にある。
 それだけで、満足だったのだ。

 頬に冷たいものが当たり、シルヴィオは現実に引き戻された。

「……くそっ、雪が降ってきたか」

 夜中のうちに、隣町の宿まで行くつもりだったが、視界が悪くなる前にたどり着けるだろうか。

(……この幸せを、みすみす奪われてなるものか)

 シルヴィオはより一層、手綱をつかむ手に力を込めた。
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