最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
***


 王都を出発して二日目、空が白み始めた頃、シルヴィオは街道沿いの宿場町にたどり着いていた。

 雪は止んでいたが、吐く息は白く、身体は冷え切っていた。

 愛馬を宿の厩舎に預けると、温かい飲み物を求めて、通りに面した酒場へと足を向けた。

 ギィ、と重い扉を開けると、旅人の姿がちらほらと見える。彼らは一様に、薄い酒や焼きたてのパンにありついていた。

 シルヴィオはフードを目深にかぶり直し、カウンターの隅に腰を下ろす。店主が無言で出したぬるいスープを口に運びながら、店内の会話に耳を澄ませる。

「……聞いたか? エルラント解放軍の話」
「ああ。あのガキのことだろ? なんでも、公爵様の私兵に見つかって、こっぴどくやられたんだってな」

 背後のテーブル席から聞こえてきた揶揄(やゆ)する声に、シルヴィオは手を止めた。

「いい気味だよなぁ! 正義の味方気取りで公爵様に盾突きやがって。15のガキに何ができるってんだ」
「公爵様の機嫌も相当悪いって話だからな。俺たちの村まで被害が出なきゃいいんだが」
「それだがよ、手下をかばって深手を負ったって話だ。今ごろ、野垂れ死にしてるんじゃねえか?」
「そりゃあ、安心だ。公爵様も溜飲を下げるってもんだ」
「ああ、ガキのお遊びもここまでってところだ。リヒト(希望)だなんて大層な名前のくせに、大したことないガキだぜ」

 ガチャンッとシルヴィオはスープの碗を置く。その音に驚いて、一瞬、口をつぐんだ男たちの方を振り向く。

「……おい、おまえたち」
「あぁ? なんだ兄ちゃん。俺たちに酒でも奢ってくれ……」
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