最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
「……あ、あんたが、姉さんの? 騎士団長だって?」

 リヒトは信じられないものを見る目で、まばたきを繰り返した。

「改めて言う。リーゼに頼まれて、リヒト・ノイエルを助けに来た。……だが、積もる話は後だ」

 シルヴィオは素早くフードをかぶり直すと、視線を後方へ向けた。

「招かれざる客がやってきたようだ」

 雪を蹴散らす足音に、深緑のマントを羽織った男たちが姿を現す。その数、およそ二十人──。

「いたぞ! 反乱分子のガキどもだ!」
「ん? なんだあの男は」
「構わん、まとめて殺せ!」

 殺気立った男たちが口々に叫び、一斉に剣を抜く。

「増えてやがる……」

 リヒトは絶望するようにつぶやいたが、すぐさま剣を構えて叫んだ。

「みんなっ、ここは俺に任せて逃げろっ!」
「馬鹿を言うな。おまえには無理だ」

 前へ出ようとするリヒトの襟首をつかんだシルヴィオは、彼を後ろへ放り投げる。

「下がっていろ。……俺は、希望なんだろ?」
「えっ……」

 シルヴィオは楽しげに口角を上げると、剣を引き抜いた。

「かかってこい」

 シルヴィオが剣をかまえた瞬間、風が凪いだ。まるで、自然さえも息をひそめたかのように。

「お、怖気付(おじけづ)くなっ!」

 男が叫ぶと、次々に兵士たちがシルヴィオに襲いかかる。

 身をかわし、剣を振り下ろす。そのたった一撃で、数人が吹き飛ぶ。

 またたく間に私兵団は一人残らず雪に沈む。ピクリとも動かない私兵たちを見下ろし、シルヴィオは剣を鞘に納めた。

「す、すげぇ……」

 激しい戦闘を終えたはずなのに、息一つあげていないシルヴィオを、リヒトは腰を抜かして見つめた。

 シルヴィオは彼に歩み寄ると、手を差し伸べた。

「怪我はないか」
「あ、ああ……。あんた、化け物かよ……」
「シルヴィオだ」
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