最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 唇の端を軽くあげると、リヒトは嬉しげにその手を握り返す。

「このまま、エルラントへ向かおう」
「エルラントに行ってくれるのか?」
「ヴァルディエ公爵の私兵ならば、話をつけられなくもない」
「まじかよっ。でもさ、あんた……シルヴィオさんでも、話し合うのは難しいかもしれない。王国の騎士団は動かせねぇのかよ」

 シルヴィオは小さく首を振る。できないと。

「俺を信じてないのか?」
「そうじゃねぇ! シルヴィオさんはおそらく知らない。どうして、エルラントのみんながずっとずっと捕虜になってるのか」
「ふたたび、反乱を起こさぬため……だな。残念だが、陛下はあの土地を半ば見放している。ヴァルディエ公爵に任せておけばいいと思っておられるんだ」

 王国騎士団をシルヴィオの一任で動かせると思っているリヒトに現実を突きつける。しかし、彼の目に絶望が浮かぶことはなかった。

「それは、公爵が陛下に介入させないために立ち回ってるからだろ?」
「それもある。エルラントの農作物は毎年献上され、うまく統治されてると、陛下は信じておられる」
「そんな話してんじゃねぇ!」
「だったらなんだ」
「じいちゃんが言ってたんだ」
「何を」
「ヴァルディエ公爵は、トゥクルとそっくりの顔をしてたって!」
「何?」

 シルヴィオは眉をひそめた。

 ヴァルディエ公爵とトゥクル辺境伯は、瓜二つの顔を持つというのか。そんなことがあるのか? 
 いや……、レナートも暁の反乱に関して、何かをつかみ、疑問を持っているようだった。もしかしたら、このことだったのか。

「詳しく話せ」
「トゥクルをよく知るじいちゃんにはわかったんだ。『トゥクルは死んだ』と告げたヴァルディエ公爵は、カスパル・トゥクル本人に間違いないって!」
「それは……本当か?」
「じいちゃんは嘘なんかつかねぇ!」
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