最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 リヒトが叫んだとき、雪に小さな黒い影が落ちた。

 シルヴィオはとっさに頭上を見上げる。黒い点が何かを探すように旋回している。

「鳥か……?」

 つぶやいたとき、その鳥はシルヴィオめがけて飛んでくる。

「リーゼ、ツレサラレタ!」
「フィン!」

 フィンはシルヴィオの周囲をぐるぐると回り、繰り返し叫ぶ。

「リーゼ、ツレサラレタ! ツレサラレタ!」
「なんだって、フィン!」
「リーゼ、コウシャクニ、ツレサラレタ!」
「どういうことだ。リーゼはレナートの屋敷に無事着いたと……」

 シルヴィオが唇を噛んだとき、リヒトが町の方を指差す。

「あれは、何だよっ」

 眼下に見下ろす宿場町に、鮮やかな青い旗をたなびかせる騎士団の姿があった。その威風堂々たる行軍(こうぐん)は、一糸乱れることなく雪山へ向かって進んでくる。

(……ったく、あいつら。まさか、レナートが陛下を動かしたんじゃないだろうな)

 シルヴィオは呆れたように、けれどどこか誇らしげに息をついて、リヒトの肩を叩く。

「あれが、おまえの待ち望んだ第一王国騎士団だ。陛下が援軍を寄越したようだな」
「王国……騎士団?」
「ああ。俺の自慢の部下たちだ。ヴァルディエ公爵の私兵になど絶対に負けない」
「じゃあ……!」

 リヒトの茶色い目に、キラキラとした輝きが戻る。

「いいか、よく聞け、リヒト。おまえはこれから俺とともに王都へ向かう。エルラントは第一王国騎士団に任せる。仲間たちは、あいつらにすべての情報を伝えるんだ。必ずや、おまえの仲間たちを守ってくれると約束しよう」
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