最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
「……お、お父さま?」

 リーゼは呆然と、アルブレヒトを見上げる。

(暁の……反乱軍? 何を言っているの?)

「さあ、かわいいリーゼよ。私とともに屋敷へ帰ろう」
「待てっ! 今の話、どういうことだっ」

 レナートが駆け寄ろうとすると、アルブレヒトの私兵たちが剣の柄に手をかける。

「ブラッツ公爵、動かないでいただこう。シルヴィオを庇えば、あなたは反乱軍の後ろ盾である、と陛下にお伝えせねばならなくなる。その覚悟はおありか?」
「そのような茶番を、陛下が信じるとお思いか」
「茶番などではない。私はシルヴィオが反乱軍の一味である証拠を握っている。いずれ、陛下にもご覧いただけるであろう」
「シルヴィオに……何をする気だ」

 苦渋に満ちたレナートの表情をあざ笑うように、アルブレヒトは唇の端を持ち上げると、リーゼの腕を引っ張る。

「さあ。シルヴィオに情けをかけた自分を恨むがよい」
「……くっ」

 ここで手出しをすれば、アルブレヒトの思うつぼだ。それがわかっているからこそ、レナートは悔しげにこぶしを握りしめる。

「すまない……、リーゼ嬢!」

 無念に歪むレナートの顔を見て、リーゼはとうに覚悟を決めていたことを思い出す。

 ここで逆らうのは得策じゃない。これまでのように、おとなしく言うことを聞いて、屋敷にこもっていればいい。そうすれば、アルブレヒトの魂胆を探れるかもしれない。

「私……、お父さまと帰ります。シルヴィオ様が迎えに来てくださるまで待ちます」

 気丈に笑顔で答えると、レナートは鼻の頭にしわを寄せ、奥歯を噛み締めた。

「では、失礼する」

 レナートに背を向けるアルブレヒトに従い、私兵たちがリーゼを取り囲む。

「私は、逃げも隠れもしません」

 リーゼは誰にともなく言い、アルブレヒトについていった。用意された豪華な馬車に乗り込むと、深い闇に包まれた街道へと走り出した。
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