最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
***


 リーゼはかつて自分の部屋だった場所に閉じ込められていた。

 大きなベッドも豪華な細工のチェストも、両親に愛されていた証のように立派なもの。けれど、それをあつらえてもらった本物のリーゼ・ヴァルディエは、リーゼがここへ連れてこられたときには、すでにいなかった。

 リーゼに仕えるメイドたちは、リーゼ・ノイエルが偽物の公爵令嬢だとは夢にも思っていない。ただ不器用で、父親に嫌われている可哀想な娘だと、本気で信じているようだった。

 現に、こうして屋敷に連れ戻され、部屋に閉じ込められても、メイドの誰一人、何があったのか尋ねてこない。アルブレヒトの命令に従って、よそよそしく最低限の彼女の世話をするだけだった。

 リーゼは薪のない暖炉の前で、小さく身体を丸めてうずくまっていた。

 逃げ道はない。アルブレヒトはただの一度も顔を見せないし、外で何が起きているのか情報を得るのは難しい。

 ──ただ一枚の手紙を除いては。

 リーゼは震える指で、手の中で握りしめていた紙を開いた。

『青き騎士、発つ。追い風あり。迎えを待て』

 フィンが運んできた、レナートからの手紙だ。とても丁寧に綴られた筆跡は、リーゼに希望を与える力強さがあった。

 青き騎士とは、青旗を掲げる第一王国騎士団のことだろう。騎士団が動いたとなれば、陛下が許可したということだ。追い風は、陛下の力添えを意味しているのか。

 アルブレヒトが静かなのは、レナートの迅速な対応に苦慮しているからかもしれない。
 それならいい。しかし、心配だった。

『シルヴィオ様に伝えて。私は公爵邸にいると』
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