最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 手紙を届けてくれたフィンにそう言い聞かせ、窓から逃がした。部屋に残されたリーゼを案じるように、フィンは何度か戻ってこようとしたが、『行ってっ!』と声をかけると、意を決したように羽ばたいていった。

 あれから数日が経つ。

 リーゼは胸の前で指を組み合わせると、ぎゅっと目を閉じた。

(ああ……どうか、……どうか、シルヴィオ様、ご無事で……)

 強く祈ったそのとき、窓にコツンと何かがぶつかる物音がした。

「……フィン?」

 リーゼがあわてて窓を開けると、灰色の影が胸に飛び込んできた。リーゼはすぐさまショールでフィンを包み込み、冷え切った翼を温めるように抱きしめて、窓の外を覗き込んだ。

「あ……、あれはっ!」

 塀の向こうに、第一王国騎士団の鮮やかな青旗が見えた。その先頭では、白銀よりも輝く銀髪の騎士が、馬上でこちらを見上げている。

 シルヴィオだ。シルヴィオが帰ってきたのだ。

「開けてっ! 誰か、ここを開けてっ!」

 リーゼは扉に駆け寄り、拳が痛くなるほど叩いて叫んだ。

 反応はない。しかし、扉の向こうには人の気配がある。アルブレヒトの怒りを買いたくないメイドたちの、ためらうようなひそひそ声が聞こえてくる。

「開けてちょうだいっ!」

 もう一度叫んだとき、ガチャリと鍵が外され、ジャラジャラと鎖をほどく硬質な音がした。

 扉が開くよりも先に、リーゼは扉を押し開けた。そこに立っていたのは、鎖を握りしめたアルブレヒトだった。

「お、お父さま……」

 アルブレヒトは今にも手につかんだ鎖で鞭打たんばかりの形相で、リーゼをにらみつけていた。

「シルヴィオが召状を運んできた。今すぐ出かける準備をしろ」
「出かけるって、どこへ……」
「王城に決まっておろうっ。陛下がおまえも連れてくるよう命じたのだ」
「陛下が、私を?」
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