最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
(なぜ、どうして?)

 リーゼは顔から一気に血の気が引くのを感じた。

 もしかしたら、バルタザールの店に置かれていた宝飾品すべてに、あの模様が刻まれていたのだろうか。そうであるなら、あのとき、リーゼが何を選んでも、シルヴィオに反乱軍の証拠を身につけさせてしまっていたことになる。

「そんな……」

 リーゼは絶望しながら、前へ歩み出た。

「リーゼ」

 シルヴィオが手を伸ばす。しかし、その指先がドレスをかすめたとき、リーゼはアルブレヒトに向かって走り出していた。

「返してくださいっ! それは、私がシルヴィオ様に選んで差し上げたものです!」

(返して。返して、首飾りを。それを奪われたら、シルヴィオ様まで失ってしまう)

 アルブレヒトの腕をつかむと、彼は目を見開き、彼女を乱暴に突き飛ばした。

「触るでないっ。この汚らわしい娘めっ!」

 リーゼが床に倒れ込むと、アルブレヒトはマリウスに向き直り、紋章を掲げたまま声を張り上げた。

「聞きましたか、陛下! この娘の自白をっ。エルラントでの貧しい暮らしに我慢がならず、貴族になりすまして、我が国の秩序を乱す反逆者と成り下がった裏切り者ですぞっ!」

 呆然と見上げるリーゼの肩を、誰かが抱き起こす。見上げると、シルヴィオが痛ましげに彼女を見下ろしていた。

 リーゼはとっさにシルヴィオの手を振り払うと、震える身体をこらえて叫んだ。

「ヴァルディエ公爵の言う通りです!」
「……リーゼッ!」

 シルヴィオが咎めるように名を呼んだが、リーゼは止まらなかった。彼を守るためには、こうするしかなかった。

「私は、ヨハン・ノイエルの娘、リーゼです。……両親は暁の反乱で殺されました。ですが、父は反乱軍を主導などしていません。私はただ……、捕らえられた弟を助けたくて……、両親の汚名をそそぎたくて、王都へ来ました」

 胸が苦しい。けれど、話すのをやめるわけにはいかなかった。
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