I 編む
確認? 彼がどうやって確認作業をしたのだろう。文脈からすると音声読み上げソフトを使っていることになるけれど———

試してみてください、と聡が言う前に、陽太さんの手は忙しなく動いて∮へのアクセスを試みていた。

はたして———
「…読めます、分かります」
片耳にイヤホンを付けている陽太さんが、上ずった声をあげた。陽太さんにとって “読める” のは聞こえている状態を意味している。

「よかった」
聡の声には安堵と喜びがあった。

ここにいる全員にとってグッドニュースだった。これでできる業務は格段に増える。
データ集計業務はどこの部署でも必須だからだ。

夢中で画面操作をしていた陽太さんが、ふと手を止める。
「でも…二階堂さん、どうしてここまでやってくれるんですか? 僕一人のために…ものすごく大変な作業だったでしょうに」

全員の視線が聡に注がれる。

「個人的な話になってしまいますが、僕の母には聴覚障害がありまして。僕はいわゆるCODA(コーダ)なんです。だから僕の名前は聡といいます。耳偏に公に心で聡です。
耳がよく聞こえるように、相手の心の声まで聞き取れるようにと願いをこめて名付けられました」

CODA———Children Of Deaf Adults(聴覚障害のある親を持つ聞こえる子ども)を意味する言葉。
明日美は、梢さんと関わるなかで、聴覚障害のことを学び始めてこの言葉を知った。

しかしまさか、二階堂聡がCODAだとは…
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