転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜
(うぅ、緊張してきた……。怖い人じゃないといいなぁ……)

 ポーラの話では、クリスティーヌは穏やかで優しい方らしい。
 だがマリアベルから散々継母の恐ろしさを聞かされてきたため、どうしても不安が拭えない。
 
 部屋の前にたどりついたセレスティアは、ひとつ深呼吸をしてから覚悟を決め、ドアを叩いた。
 すると間髪入れずに中から「どうぞ」と柔らかな女性の声が返ってくる。

「しつれい、いたしますっ!」

 丁寧に挨拶をしてから扉をポーラに開けてもらい、セレスティアは室内に足を踏み入れた。

「初めまして、セレスティアさん」

 そう言って出迎えてくれたのは、薄紫色のドレスをまとった細身の女性だった。

(わぁ、綺麗な人……)

 ほっそりとした面差しは新雪のように白く、背に流れる髪も氷の結晶を思わせる澄んだ銀色。
 窓から差し込む陽光が彼女の輪郭を淡く縁取り、そのまま溶けて消えてしまいそうな儚げな雰囲気を醸し出している。

 眉がハの形に下がったその表情は気の強そうな継母像とはほど遠く、継子を虐めるような人物にはとても見えなかった。
 
 思いがけない継母の第一印象に、セレスティアは一瞬ぽかんと立ち尽くす。
 しかし、マリアベルが足にすりっと額を擦りつけてきた感触でハッと我に返った。

 すぐさまスカートの(すそ)を摘まみ、ポーラに教わった通り、ゆっくりと身を沈めて淑女のお辞儀(カーテシー)をする。

「はじめまして、くりすちーぬさま! おあいできて、こうえいで、ございます。ごあいさつが、おくれまして、もうしわけごじゃい……ごじゃ、ご……」

 一度甘噛みをしてしまったら最後。焦りと緊張で、ただでさえ動かしにくい舌が、余計にうまく回らなくなってしまった。

(あんなに何度も練習したのにぃ! 三歳児の身体、不便すぎっ!)

 思い通りにならない我が身に苛立ちながらも、どんなに頑張っても発音できないものは仕方ない。

「ごあいさつ、おそくなって、ごめんなしゃいっ!」

 セレスティアはとっさに難しい言い回しを諦め、クリスティーヌの翡翠(ひすい)色の瞳をまっすぐに見上げて、年相応の言葉で気持ちを伝えた。
 
 すると子供らしい言動がクリスティーヌの緊張を解きほぐしたのか、彼女がわずかに口元をほころばせる。

「どうかお気になさらないでください。お身体はもうよろしいのですか?」

「はいっ!」

「それは、よかったです」

 クリスティーヌに促され、セレスティアは窓辺のテーブル席に腰を下ろした。
 すかさず使用人たちがティーセットを載せたワゴンを押してきて、カップに香り高いお茶を注いでくれる。

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