転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜
 ──〝我、ここに、こいねがう。
  夢幻のごとく儚きうつつ。
  脳裏に刻まれし消えゆく光景。
  かつてその目に映りしものを、我が目にも明らかにしたまえ〟


 記憶共有の呪文を念じた瞬間、閉ざされた真っ暗な視界に淡い光がじわじわと広がっていく。

 見えてきたのは、曇りガラスを隔てたようなぼやけた光景。
 さらに感覚を研ぎ澄ませてゆけば、おぼろげな輪郭が次第に鮮明になっていく。

 最初にはっきりと目に映ったのは、白くきめ細やかな肌。
 なめらかな曲線を描くそれは、どうやら誰かのふくらはぎのようだった。

(うぅ~ん、見にくいなぁ……)

 マリアベルの記憶を追体験しているため、視点が低いのが難点だ。
 状況が分からずもどかしい気持ちでいると、床にいたマリアベルがベッドに飛び乗ってくれたおかげで、先程よりも室内をよく見渡せるようになった。

 就寝間際の薄暗い室内。
 静まり返った公爵夫人の寝室でひとり、夜着に身を包んだクリスティーヌがベッドの縁に腰かけ、うつむいていた。

 最初に見えた足は彼女のものだったらしい。

 ベッドサイドにある燭台の灯りがゆらゆらと揺れるたび、彼女の翡翠の瞳も不安げにゆらめく。

 やがて部屋の外から聞こえてきたかすかな足音。
 クリスティーヌが顔を上げて目を向けるのとほぼ同時に、ノックの音が響いた。

「は、はい。どうぞ」

 緊張を滲ませながら応えれば、寝室の扉が静かに開かれる。

 現れたアルフレッドは、夜着をまとうクリスティーヌに対し、黒地に金色の刺繍が施された貴族服を着込んでいる。

 夫婦の時間をリラックスして過ごすつもりがないのは一目瞭然。
 むしろ新妻との初めての夜を拒むかのような、一分の隙もない完璧な貴公子の姿がそこにはあった。


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