【完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜

第9話:想いを伝える勇気


 夕食を終え、自室に戻り湯浴みを済ませたクリスティーヌは、鏡台の前の椅子に腰を下ろした。

(あぁ、今日はとても楽しかった)

 なにかを食べてこんなに美味しいと感じ、幸せな気持ちになったのは、いつぶりだろう。

 実家にいた時から食事は基本ひとりで、リシャール家に嫁いできてからも自室で済ませていたため、誰かとテーブルを囲む喜びなど久しく忘れていた。

 しみじみと晩餐会の余韻に浸りつつ、ブラシで髪を梳かす。

 黙々と手を動かしている間、脳裏に浮かぶのはセレスティアのことばかりだった。

 お日様のように周囲を照らす明るい笑顔。
 無邪気で好奇心旺盛で、感情豊か。

 笑ったりはしゃいだり、年相応に拗ねたかと思えば、時折おませなことを言うところも微笑ましい。
 
 たどたどしく『くりすちーぬさま』と名を呼び、まるで親鳥のあとを追う雛のように後ろをチョコチョコとついてくる姿は、悶絶級の可愛らしさだ。
 
 見ず知らずのクリスティーヌが突然屋敷に来たことで、戸惑いはあったはず。

 それでもセレスティアの方から訪ねてきてくれて、『仲よくなりたい』と歩み寄ってくれた。そして今は血が繋がらずとも母として慕ってくれている。


(本当に、優しくていい子だわ。今日の晩餐会だってきっと……)


 出張から戻ってきたアルフレッドをいたわり、クリスティーヌを歓迎するためと聞いていたが、目的はそれだけでないはずだ。

 おそらく部屋にこもりきりのクリスティーヌを案じ、外に連れ出す口実を作ってくれたのだろう。

 そして幼いながらも、アルフレッドとクリスティーヌの間に漂うぎこちない雰囲気を察していたに違いない。

 なんとかして場の空気を和らげようと明るく振る舞ってくれていた気がする。

(三歳の子に気を遣わせてしまうなんて、私ったら駄目ね)

 小さくため息をついてブラシを置いた拍子に、羽織っていたショールが肩からするりと滑り落ちた。

 ずり落ちたそれを引き上げると、夜中の肌寒い空気に触れた腕と背中に、再びぬくもりが戻ってくる。

 さすがは熱を発する火鉱石が織り込まれた一級品。
 普通の布とは比べものにならないほど温かく、さらに肌触りも素晴らしい。


 クリスティーヌが自室に戻ってきた時にはすでに敷物は冬用のものに取り替えられており、この火鉱布のショールや膝掛けなどが用意されていた。

 食事を中断するほど大事な用事があったにもかかわらず、アルフレッドは晩餐の席での約束を忘れず、いち早く手配してくれたのだろう。

 冷淡な人かと思えば、こうして気遣うそぶりを見せてくる。仮にも夫婦だというのに、夫のことがまったく分からない。

 だがそれも当然と言えよう。

 なにせ人柄を窺い知れるほど、言葉を交わす機会などなかったのだから。

(ずっとこんな生活を続けていては、いけないわよね……)

 セレスティアを安心させるためにも、アルフレッドときちんと向き合い、良好な関係を築かなければいけない。

 ひそかな決意を胸に抱き、明日にでもアルフレッドとの面会をジェラールに取り次いでもらおう──そう考えていた時だった。

 コンコンと、夜の静けさに響いたノック音。
 こんな時間に誰だろうと思いながら「はい」と応えれば、聞こえてきたのは驚くべき人の声だった。

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