【完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜
「俺だ、アルフレッドだ」

(だっ、旦那様……⁉)

 クリスティーヌは目を見張ると素早く椅子から立ち上がり、急いで扉を開けた。

 廊下に立つアルフレッドはこんな夜中だというのに、晩餐会の時と同じく濃紺のジャケットに黒い脚衣(ズボン)という出で立ちだった。

 おそらく今の今まで仕事をしていたのだろう。急な来客の対応に追われていたのかもしれない。

「こんな夜更けにすまない。君に話したいことがあって来たのだが、少しだけ時間をもらってもいいだろうか」

「はっ、はい。もちろんでございます」

 クリスティーヌはアルフレッドを室内に通すと、リビングのソファを勧めた。彼が腰を下ろしたのを見届けてから正面に着席し、おずおずと切り出す。

「その……私にお話とは、なんでしょうか?」

「まず、君に感謝を伝えたい。俺が屋敷を離れている間、娘の面倒を見てくれていたとジェラールから聞いた。礼を言う」

「いいえ、そんな……私はただそばにいただけでございますので、大したことは……」

「ともにいてくれるだけで、十分ありがたいことだ。俺は仕事柄不在が多く、あの子に寂しい思いをさせてばかりだからな」

 アルフレッドはわずかに視線を落とし、組んだ手元を見下ろした。

 長いまつげが彼の頬に影を落とす。

 常と変わらぬ無表情ではあるものの、初対面の時に感じた冷たい印象はなりをひそめ、今はただ我が子を案じる父親の顔をしているように、クリスティーヌには見えた。

「セレスティアは臆病な子だ。見ず知らずの相手はもちろんのこと、少し前までは俺のことさえ怖がっていた。そんなあの子が、出会って間もない君によく懐いているとジェラールから聞いた時は、正直驚いたよ」

 内心驚いたのはクリスティーヌも同様だった。

(セレスティアさんが、臆病……?)

 初めて会った時からセレスティアは明るく無邪気で、そして非常に人懐っこい子だった。

 そのためアルフレッドの話はにわかに信じがたいものの、口ぶりからして嘘ではないようだ。

「今宵の晩餐会で君と娘の仲睦まじい姿を見て、君があの子にいかに温かく接してくれていたのか、よく分かった。──ありがとう。そして……すまなかった」

 アルフレッドは膝の上に両手を置き、深く頭を下げた。

 その真摯な謝罪にクリスティーヌは戸惑わずにはいられない。

 なにせ彼は、夫婦となって初めての夜に、クリスティーヌにひどくそっけない態度を取った人だ。

『公の場でリシャール公爵夫人の名に恥じない行動をしてくれれば、君には他になにも望まない』

 そう言い放った冷淡な夫なのに。

 信じられない光景に声も出せずにいるクリスティーヌの目の前で、顔を上げたアルフレッドが静かに問いかけてくる。

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