【完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜
 なんと一度ならず二度も、アルフレッドが頭を下げていたのだ。

「重ね重ね、すまなかった」

「い、いいえ……! 謝罪をいただきたいわけではないのです。どうか……どうか顔を上げてくださいませ、旦那様」

 必死に懇願すれば、アルフレッドはゆっくりと伏せていた顔を上げた。そして、クリスティーヌが本音を口にしたからだろう。彼は一瞬だけ目を伏せ、今度は自分の番だと言わんばかりに、胸の内を語りはじめる。

「俺は煩わしい縁談から逃れるため、君は家の呪縛から逃れるため、この結婚は互いに利があってのものだ。ゆえに、君になに不自由のない暮らしを保証できれば、夫としての義務を果たしたことになる。勝手にそう解釈し、君の気持ちをまったく(おもんぱか)っていなかった」

 他人の心の機微に疎い、俺の悪癖だ──と、アルフレッドは呟く。
 その声色には後悔と、みずからを嫌悪するかのような感情が滲んでいるように、クリスティーヌには思えた。

 それに、とアルフレッドが言葉を続ける。

「君の人柄はスチュアート殿下とヒルデガルト様のお墨付きだ。とはいえ、実家がメディス侯爵家であることに変わりはない。正直に言うと、初日は君を歓迎する気持ちより……警戒心が勝ってしまっていた」

「私が父からなんらかの密命を帯び、リシャール家に害を及ぼす存在になりはしないか。危惧なさっていたのですね?」

「ああ。疑うような真似をした」

 詫びようとするアルフレッドを、クリスティーヌは慌てて首を振って押し留めた。

 公爵家を守る当主の立場だからこそ、家名に傷をつけるような行いをするなと、初日に厳しく釘を刺さざるを得なかったのだろう。

 嫌われていたわけではなく、彼には彼なりの事情があったのだと分かり、クリスティーヌの胸の内に安堵が広がっていく。

「どうかお気になさらないでください。旦那様のご不安はもっともです。父は権力を得るためなら、強引な手段も厭わない人ですから」

 表向きは娘を同盟の証として送り込みながらも、嫁ぎ先の弱みを握るように命じたり、結婚相手を堕落させて競合(ライバル)貴族家を破滅に追い込んだり。

 曾祖父、祖父、そして父──メディス侯爵家の当主に脈々と引き継がれてきた政略結婚という名の謀略は、クリスティーヌが把握している限りでもおぞましい内容ばかり。

 そしてなぜそれを知っているかというと、他ならぬクリスティーヌ自身が、その恐ろしい政略結婚を強いられかけたからだ。

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