【完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜
 蓋を上げると、中には親指サイズの謎妖精がもうひとり。
 ピンクのフリルリボンの髪飾りを宝物のようにきゅっと抱き締め、大きな両目にウルウルと涙を溜めて震えていた。

 セレスティアの肩に飛び乗ったマリアベルが、合点がいったように『ははぁ~ん。そういうこと』と呟いた。

『小物入れの中を物色していたら、蓋が閉まっちゃって閉じ込められたのね。ふん、悪戯などするからですわよ』

 豊満ボディの貫禄ある猫妖精に見下ろされ、毛むくじゃらの妖精たちは肩を跳ねさせた。そして逃げようとしたその瞬間、すかさずマリアベルの制止の声が飛ぶ。

『お待ちなさい! 謝罪も礼もなく立ち去ろうとするなんて、失礼にもほどがありますわ。同じ妖精として見過ごすことはできなくってよ!』

 セレスティアに助けを求めた方の謎妖精は、拗ねたように唇を尖らせてうつむいた。
 一方、小物入れに閉じ込められていた方の謎妖精は、手にしていた髪飾りを名残惜しそうに箱に戻し、素直に頭を下げた。

『カワイイ、ホシカッタ。ヌスム、シテ、ゴメンナサイ。ホラ、ニィチャンモ』

 どうやらこの妖精たちは兄妹のようだ。先程までふて腐れた様子を見せていた『兄ちゃん』は、妹に促されてペコッと会釈した。

『……イモウト、タスケテクレテ、アリガト』

「いいよ。どういたしまして! あっ、ちょっと待って。──はい、これ」

 セレスティアは小物入れから例のフリルリボンの髪飾りを取り出すと、妹妖精の前にそっと差し出した。

『ちょっと、セレスティア! それ、あげちゃっていいの?』

「うん。さいきんこれ、あんまりつけてないの。ほしいひとに、つかってもらったほうが、このリボンも、よろこぶとおもうから」

『……ホントニ、イイノ?』

 大きなお目々をウルウルさせて尋ねてくる妹妖精に、セレスティアは笑顔で頷いた。

「いいよ。たいせつにしてね」

『ウン!』

「あと、もうおやしきのモノ、ぬすんじゃダメだからね。イタズラも、やめてね」

『ウン!』

『オウ、ワカッタ』

 妹妖精はリボンをぎゅっと胸に抱き締め、兄妖精とともに鏡台を下りると、クローゼットの方へと走っていく。
 不思議に思いあとを追うと、寝室の壁の隅にネズミが一匹かろうじて通れるほどの穴が空いていた。

 大きなクローゼットに隠れて、今の今までまったく気付かなかった。あとで修繕を頼まないと。

『ほんっと、アナタってばお人好しねぇ。ボギーみたいな悪戯妖精に優しくしたって、いいことなんてありませんのに』

「あのふたり、ぼぎーだったんだ」

『あらま、気付いていなかったんですの?』

「うん。ハナシはきいたことあるけど、みたのはハジメテ」

 ボギーは屋敷に住み着く妖精で、とんがり帽子に赤茶の髭が特徴の〝ブラウニー〟と同じく小人の一種族である。

 近縁種であるブラウニーが温厚な性格なのに対し、ボギーは根っからの悪戯好き。自分たちが楽しければ周囲に迷惑をかけることも(いと)わない、自己中心的な振る舞いをするものが多い。

 そのため、マリアベルのようによく思わない妖精たちも多く、ボギーは嫌われ者の種族として《緑の民》の間でも語り継がれていた。

「んぅ……ねむい……」

『アタクシもよ。もう一眠りしましょう』

 うんと頷きベッドの方へと足を向けたその時、背後から『マッテ』と呼び止められた。
 振り返れば、そこにいたのは立ち去ったはずのボギーの片割れ。髪飾りを持っているところから、おそらく妹の方だろう。

「ん? どうしたの?」

『オレイ、ワスレテタ』

「お礼?」

 なにかくれるのかと思いしゃがんだが、どうやらお礼は物ではなかったらしい。
 髪飾りを抱えたボギーはちょこちょこと近づいてくると、一生懸命に訴えはじめた。


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