【完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜

第3話:一方、王宮では……


 王都の行政区にそびえ立つ白亜の議事堂。
 シャンデリアがきらめく大広間には国内の名だたる貴族が集結し、今まさに国の重大事についての話し合いがなされていた。

「リシャール公爵領で死骸虫が発見されて以来、目撃情報は日に日に増すばかり。このまま手をこまねけば、五年前の大飢饉と同じ……いえ、それ以上の惨事になりかねませぬぞ」

「同感でございます。駆除剤の開発はどの段階まで進んでおるのですか? そろそろ結果を出していただかぬと困りますぞ、ドゴール侯爵」

 貴族らの訴えに対し、国内の医師と薬師を束ねる医薬府の長であるドゴール侯爵が、宮廷役人の差し出した答弁資料を淡々と読み上げていく。

「現在鋭意取り組んでおりますため、もうしばらくお時間を頂戴したく」

「その答弁はいい加減、聞き飽きました。我々は一体いつまで待てばよいのです?」

 立ち上がってそう意見したのは、四十代半ばの黒髪の男性貴族。クリスティーヌの父親であるメディス侯爵だった。

「ドゴール侯爵。貴方様が医薬府の長である限り、いくら時間をかけても駆除剤は完成せぬのではないですか?」

「なんだと?」

 齢六十の重鎮ドゴール侯爵は、年下のメディス侯爵の挑発的な物言いが(しゃく)に障ったのだろう。(まなじり)をつり上げて低い声で問うた。

「開発が進まぬのは、わしのせいだと言いたいのか?」

「薬師たちをうまく統率できていないため、思うような結果が得られぬのでは?」

「ハッ、若造が知った口を利きおって。よいか? わしは数十年にわたり、この職を務め上げてきた。医師や薬師らをまとめあげ、これまでいかに多くの成果を上げてきたと思っておる。前回の飢饉の折とて、わしが陣頭指揮を執って作った駆除剤によって蝗害が終息したではないか」

「終息? 貴方様こそお忘れですか、ドゴール侯爵。前回は開発に一年以上の月日を費やし、その結果多くの民が飢えて亡くなりました。今年の死骸虫は、従来の駆除剤が効かぬと聞いております。またもや後手に回り、多くの死者を出すおつもりですかな?」

 痛いところを突かれたドゴール侯爵は、悔しげに顔を歪めたまま黙り込んだ。

「一刻も早く駆除剤を完成させてください。できぬのであれば、責任を取って職を退かれるべきでしょう。みなさまも、そうは思いませんか!」

 メディス侯爵が机を叩き、周囲を扇動するように叫んだ。

 大飢饉の再来に怯える貴族らは、恐怖や不安、焦りに突き動かされるまま「そうだ、そうだ!」「結果を残せない医薬府長などいらない!」と同調してヤジを飛ばしはじめる。

 しかし取り乱している貴族らは気付かない。
 この場を混乱に陥れた張本人──メディス侯爵の口の端が一瞬、かすかに持ち上がったことに。

(この機にドゴール侯爵を追い落とし、空いた医薬府長の座におさまる算段か。メディス侯爵……やはり油断ならないな)

 腕組みして状況を静観していたアルフレッドは、メディス侯爵という男の危うさを胸に刻んでいた。

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