【完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜
 嫁いできた当初、アルフレッドがクリスティーヌに心を許さぬようにしていたのは、彼女の父親がこうした野心家な人間だと知っていたからだ。

 もっとも、娘のクリスティーヌは父親と似ても似つかず私欲のない人で、血の繋がりのないセレスティアを心から慈しみ、使用人にも丁寧に接する。ひたむきで謙虚な女性だったわけだが。

「わしはこれにて失礼する!」

 槍玉(やりだま)に挙げられたドゴール侯爵は憤怒と屈辱に顔を染め上げ、椅子を蹴飛ばさん勢いで立ち上がり出ていってしまった。

「議会を途中で放り出すとは、ドゴール侯爵にも困ったものです。かくなる上は、スチュアート殿下。議長であらせられる殿下が、現医薬府長の退任と後任の選定をお命じくださいませんでしょうか?」

 メディス侯爵からの進言に、長テーブルの一番奥の席に腰かける二十代後半の男性──スチュアート第二王子が考え込むように目を伏せた。

 顎に手を添え、うつむき加減になった拍子に、赤みがかった金髪が額にさらりとかかる。
 同性のアルフレッドから見ても端正な顔立ちの男だ。数多の画家が描きたいと熱望する気持ちも、分からなくはない。

「貴殿の意見には賛同できる部分もある。だがこの逼迫した状況で、経験豊富なドゴール侯爵を退任させるのは得策とは言えぬ。そこで本件が終結するまで、医薬府には副長官を置くこととする」

「英断でございます、殿下。それでは、副長官にはどなたをお選びになるおつもりですか?」

「アルフレッド・リシャール公爵に任せたい」

 スチュアートがそう告げた瞬間、メディス侯爵の笑顔がまたたく間に凍りついた。
 てっきり自分が選ばれるものと高をくくっていたのだろう。

 実際、メディス侯爵は公爵家に次ぐ爵位を持ち、年齢や議会での影響力、家格も申し分ない。
 政務府長を務めるアルフレッドを含め、公爵家の当主が全員なんらかの宮廷役職につき多忙を極める中、メディス侯爵が副長官の最有力候補ではあったのだ。

 期待していた役職が手に入らず、その落胆は計り知れなかったようだ。メディス侯爵はテーブルの一点を見つめ、打ちひしがれている。
 そんな彼をスチュアートは一瞥しただけで気に留めず、すぐさま目線をアルフレッドへと移した。

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