【完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜

第5話:「しんじゃ、いやぁ~!」


「おとうしゃま。まだかなぁ、まだかなぁ」

 リビングの窓にかじり付き、そわそわと外を見やるセレスティア。
 父の帰宅を待ちわびる幼子の姿に、クリスティーヌとポーラが顔を見合わせて微笑んだ。

「予定では、そろそろご到着する頃ですが……」

 ポーラが時刻を確認しながらそう呟いた直後、セレスティアは「あっ」と声を上げた。
 四頭立ての長距離馬車が門をくぐって屋敷に近づいてくるのが見えたのだ。

「かえってきた! おでむかえ、するっ!」

「ええ、行きましょうか」

 クリスティーヌと手を繋ぎ、リビングを出て廊下を進む。
 エントランスホールにつくと、ちょうど玄関扉が開かれた。

「おとうしゃま、おかえりなしゃ……ええっ⁉」
 
 視界に飛び込んできたアルフレッドのやつれた顔に、セレスティアはギョッとした。
 
 まるで幽鬼のような青白い顔に、目の下にはびっしりと隈が張り付いている。
 もとから引き締まった精悍な顔つきをしているが、それにしても今は頬が少しばかりこけている気がした。
 
 だが疲れ果てていてもなお、人目を引く美しさが損なわれていないのが、アルフレッドのすごいところだ。
 気怠げな表情や仕草が、常とは違うあやうい雰囲気を醸し出している。一般的にそれは『大人の男の色香』というものなのだが、前世十三歳、現世三歳のセレスティアが正しく感じ取れるはずもない。

(なんか、すっごく疲れてる……!)

 そんな印象を受けたセレスティアは、眉をハの字に下げ、クリスティーヌと挨拶を交わしているアルフレッドを上目遣いで見上げた。

「おとうしゃま、だいじょうぶ?」

「ああ、問題ない。長らく留守にしてすまなかったな。誕生の祝祭に間に合ってよかった」

「えっ」

 意図せぬ言葉にセレスティアは目をパチパチと瞬かせる。
 確かに誕生の祝祭(こどもの日)は十日後に迫っているが、まさかアルフレッドがそれを覚えており、なおかつ間に合うように出張から戻ってくるとは思わなかったのだ。

「おとうしゃま、おぼえてた?」

「当たり前だろう」

 子供の幸福を願う日を忘れる親はいないと、アルフレッドは常の淡々とした口調で答えた。

 そういえばクローゼットの中には、去年、おととしに彼から贈られたというドレスが入っている。幼すぎてもらった時の記憶はかなり曖昧ではあるものの、「おめでとう」と毎年祝いの言葉を告げられていた気もする。

 仕事第一で、娘のことは後回しにしている父。
 そう思っていたけれど……。
 
 忘れていた、あるいは気付かなかっただけで、セレスティアは今までもちゃんと、父からたくさんの愛情をもらっていたのかもしれない。

「えへへ! おとうしゃま、だーいすきっ!」

 喜びがこみ上げ、セレスティアは両手を広げて勢いよくアルフレッドの腰に抱きついた。
 ドン!とぶつかった瞬間、目の前の大きな身体がぐらりとよろめく。

「ふぇ? わっ、わわっ!」

 一瞬の浮遊感の後、襲い来るわずかな衝撃。
 ギュッと閉じていた目を開くと、そこにあったのはまぶたを閉じるアルフレッドの顔。

 彼はセレスティアを抱き留めた姿勢のまま、エントランスホールの床に仰向けで倒れていた。
 すぐさまクリスティーヌとジェラール、そしてポーラが駆け寄り、一瞬反応が遅れた他の使用人らも「旦那様! お嬢様!」と言って近づいてくる。

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