野いちご源氏物語 四六 椎本(しいがもと)
(はち)(みや)様がお寺での修行を終え、山荘(さんそう)にお戻りになる日になった。
姫君(ひめぎみ)たちはお帰りを待ちかねていらっしゃる。
夕暮れ時、使者(ししゃ)がやって来て、八の宮様からのご伝言をお伝えした。
「今朝から体調を(くず)し、今日は帰れなくなりました。おそらく風邪(かぜ)だろうということで手当てをしています。いつもよりもあなたたちに会いたく思うのだけれど」
というご伝言だったので、姫君たちはどきりとなさる。

<どのようなご病状(びょうじょう)なのだろう>と心配なさりながら、暖かいお着物を用意してお寺へ持たせなさった。
姫君たちはいてもたってもいられず、お寺へ何度も使者をお出しになる。
でもそのたびに、
「とくにひどいわけではありません。なんとなく苦しいだけだから、多少よくなったら無理をしてでも帰るつもりです」
という八の宮様からのご伝言が届くだけ。

お寺では阿闍梨(あじゃり)がご看病をしていた。
「重病とは思われませんが、ここがご寿命(じゅみょう)かもしれません。姫君たちのことはご心配なさいますな。人は皆、それぞれに運命というものがございます。宮様がお気になさることではありません」
成仏(じょうぶつ)(さまた)げになりそうなものは見捨てるべきだとお教えする。
「せっかくお寺にいらっしゃるのです。今さら(ぞく)世間(せけん)になど戻られてはいけませんよ」
と、姫君たちのところへ戻ることもお止めした。
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