野いちご源氏物語 四六 椎本(しいがもと)
秋の(きり)は晴れる間もなく、お寺と山荘(さんそう)をへだてている。
姫君(ひめぎみ)たちが心配して(なげ)いていらっしゃると、めずらしく月が明るく出た。
宇治(うじ)(がわ)水面(みなも)がきらきらと輝いているのをお部屋からご覧になる。
お寺の(かね)の音がかすかに響いて、<夜が明けるのだ>とお思いになったところへ使者が来た。
「夜中にお亡くなりになりました」
と泣きながら申し上げる。

まったく覚悟していらっしゃらなかったわけではないけれど、いざお聞きになると、姫君たちは放心(ほうしん)状態になってしまわれた。
こういうときには涙も出ない。
ただうつ()していらっしゃる。

いっそ目の前でお亡くなりになったのなら、嫌でも納得するしかなかったでしょうけれど、お寺で亡くなったとお聞きになっただけだもの。
姫君たちはよけいにつらくお嘆きになる。
父宮(ちちみや)様がお亡くなりになれば、私たちの命も終わるだろう>
と信じて泣いていらっしゃるけれど、命とはそういうものではないのよね。
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