野いちご源氏物語 四六 椎本(しいがもと)
(はち)(みや)様が以前から頼んでおかれたとおり、阿闍梨(あじゃり)がご葬儀(そうぎ)を取り仕切る。
「亡くなった父宮(ちちみや)様のお姿を一目(ひとめ)だけでも拝見したい」
姫君(ひめぎみ)たちはお願いなさるけれど、阿闍梨はきっぱりとお断りした。
「今さらそんなことをなさってもどうしようもありません。宮様がご体調を(くず)されてから、山荘(さんそう)にはお戻りなさいますなと私はずっとご説得していたのです。それがご成仏(じょうぶつ)への道でございますからね。お互いに執着(しゅうちゃく)を残さないことだけをお心がけになるべきです」

最期(さいご)のご様子についてお聞かせするときも、阿闍梨はしみじみとした言い方をしない。
八の宮様をご成仏させることが唯一(ゆいいつ)の正しいことだと信じていて、姫君たちへの思いやりはないの。
厳格な僧侶(そうりょ)の冷たさを姫君たちはお(うら)みになる。

出家(しゅっけ)したいと深くお思いになりながらも、八の宮様はこれまで(ぞく)世間(せけん)にとどまっていらっしゃった。
姫君たちを(まか)せられる人がいなかったというのもあるけれど、姫君たちをお世話することはたしかにお幸せでもあって、お離れになることができなかったの。
それを無理やり離れ離れにさせたのは、念願(ねんがん)のご出家ではなくご寿命(じゅみょう)だったのだから、宮様にとっても姫君たちにとっても()本意(ほんい)なことだったでしょうね。
命って本当に思いどおりにならない。
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