野いちご源氏物語 四六 椎本(しいがもと)
(かおる)(きみ)からもお手紙が届く。
真面目な内容なので、匂宮(におうのみや)様のお手紙のように気が引けてしまわれることはない。
大君(おおいぎみ)がお返事をなさっているわ。

匂宮様が長いお手紙をお送りになったころ、薫の君は宇治(うじ)までお越しになった。
喪中(もちゅう)で何もかも地味になさっているところへ、まばゆいほど美しいお姿でお入りになったから、姫君(ひめぎみ)たちは話しかけられてもお返事などおできにならない。

「そっけなくなさらないでください。お父宮(ちちみや)のご遺言(ゆいごん)どおりに私を信用なさって、うちとけてお話をしてください。お父宮からあなた様たちのお世話を頼まれた身ですから、そうしてくだされば、この先こちらへ参る甲斐(かい)もございます。女性を()()きなれていない私は、人づてにもったいぶってお話しするのが苦手なのです。ご自身で直接お話しくださいませんか」

大君はお断りになる。
「どうやらいまだに命があるようですが、生きている実感はまったく()かないのです。悪い夢のなかにいるような気がいたします。喪中は光が差すところに出るのも遠慮されまして、ずっと部屋の奥深くにおります。直接お話ができるところまで出てまいることができません」

「それはお考えが深すぎましょう。月の光や日の光を晴れ晴れと楽しむというわけではないのですから、少しくらいこちらへ出ていらっしゃっても問題ないはずです。これでは私の言葉が届いているのか不安になってしまいます。私の誠実な気持ちをお伝えして、あなた様のお気持ちもお聞かせいただきたいと思っておりますのに」
女房(にょうぼう)たちは薫の君にご同情して、
「これほど真剣に姫様をお(なぐさ)めしようとしていらっしゃるのですから」
と、(すだれ)の近くまでお出になるようにおすすめする。
< 38 / 63 >

この作品をシェア

pagetop