野いちご源氏物語 四六 椎本(しいがもと)
父宮(ちちみや)様のご遺言(ゆいごん)とはいえ、私たちのためにはるばる都から来てくださったのだ>
落ち着きはじめたお心で冷静にお考えになって、大君(おおいぎみ)は少し(すだれ)の方へお寄りになった。
(かおる)(きみ)姫君(ひめぎみ)たちのお悲しみに寄りそい、ご自分が(はち)(みや)様とお約束なさったあれこれを、誠実に親身(しんみ)にお話しになる。

強引(ごういん)なことをする気配(けはい)などない男性なので、大君もそれほど嫌な感じはなさらない。
ただそれでも、父宮様に守られていたころを思えば、よその男性に声を聞かせて頼らなければならない今のご境遇(きょうぐう)がお苦しい。
遠慮がちにかすかに一言だけお返事なさる。
すっかりしおれきったご様子に、薫の君はさらにご同情なさる。

ついたてのむこうに大君の痛々しいお姿が()けて見える。
「今は枯草(かれくさ)を見てもあなた様を思い出すのですよ。こんな色の喪服(もふく)を着て泣いていらっしゃるだろうと」
独り言のようにおっしゃる。
「喪服はすっかり涙の()みかになってしまいました。私自身の居場所はどこにもないような気がいたしますけれど」
最後まで言い切れず、我慢できなくなって大君はお部屋の奥へ入ってしまわれた。
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