野いちご源氏物語 四六 椎本(しいがもと)
霞(かすみ)がかった山の桜は、散る花も開きはじめた花もいろいろで風情(ふぜい)がある。
川沿いの柳(やなぎ)が風になびいて川に映(うつ)りこんでいるのも楽しい。
貴族たちはふだん見慣れない景色に感動して、出発しにくく思っている。

薫(かおる)の君(きみ)は、このついでに八(はち)の宮(みや)様の山荘(さんそう)を訪れたいと思っていたけれど、なにしろ人目(ひとめ)が多い。
小舟(こぶね)に乗ってひとりで川の向こう岸に渡るのは、あまりに軽々しく見える。
諦(あきら)めようとなさったところに、八の宮様からお手紙が届いた。
「音楽の音色はこちらまで響いてまいりましたが、あなたのお声は一言も聞かせてくださらないのでしょうか」
優美(ゆうび)に書かれたお手紙だったわ。

匂宮(におうのみや)様もご覧になって、薫の君の代わりにお返事を書くとおっしゃった。
「宇治(うじ)川(がわ)がお互いをへだてていても、私の思いを風に乗せて届けましょう」
とお書きになったみたい。
< 6 / 63 >

この作品をシェア

pagetop