野いちご源氏物語 四六 椎本(しいがもと)
つづいて大君(おおいぎみ)のお姿が現れた。
「あの戸の前についたてを置いた方がよいのではないかしら。(のぞ)かれてしまうわ」
(かおる)(きみ)の方を見やるご様子が、用心(ようじん)(ぶか)くて奥ゆかしい。
(つむり)の感じは中君(なかのきみ)よりもさらに上品で、大人びたお美しさがある。

「あちらのお部屋には、戸の前についたてを置いてございますよ。いきなりついたてをどけてお覗きにはならないでしょう」
若い女房(にょうぼう)が軽い調子で申し上げる。
「何かあってからでは困るのよ」
まだ心配そうになさっている。
()(だか)くて、よく気のつく姫君(ひめぎみ)でいらっしゃるの。

中君と同じような色合いのお着物をお召しだけれど、大君の場合は可憐(かれん)痛々(いたいた)しく見える。
ここのところのご心労(しんろう)で、お(ぐし)の量が減ってしまったみたい。
でも、このくらいがさわやかでよいとも思えるわ。
緑がかった黒髪がさらさらと美しい。

紫色の紙に書かれたお(きょう)を持っていらっしゃる。
お手は中君よりもほっそりとして、全体的におやせになっている。
先にお部屋を出ようとなさっていた中君が、何かおもしろいものをお見つけになったのか、姉君(あねぎみ)をふり返ってにっこりなさった。
とてもおかわいらしいの。
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