恋愛期間0。彼の毒はスイーツより甘かった。(仮)
 かわいくねー!と奴の声が聞こえたが、振り向かずに温泉施設に入った。
 入館料は安くは無かったけど、気持ち良くて毎日通いたいくらいだ。

 名物の温泉饅頭を購入し、ホクホクして車へ戻ると、

「なに、これ」

 ワイパーに紙が挟まっていた。
 この前受け取らなかった塩田の名刺だ。
 丸めようとしたが、それも酷い気がしたし、人生転換してから初めて貰った物だから、何となく取っておく事にした。

「さぁ飯盒、ハンゴウ」

 小学校のキャンプ以来、目にするのも久しぶりでワクワクする。
 米を炊ぎ、浸水させてカセットコンロで火にかけた。前の使用者がミニ換気扇を作ってくれていたので一酸化炭素中毒にならずに済む。そして、出来上がったご飯に温めたレトルトカレーをかける。
 車中泊初心者で凝った料理なんて出来ない。
 そもそもお菓子以外、今まで作りたいと思った事がなかった。仕事もキツかったし、食事は自炊とは程遠い生活だった。

「……不健康、だったな」

 すっかり暗くなった外を眺めて呟き、そうだ、目隠ししなきゃとサンシェードとマグネット式のカーテンを取り付ける。
 買った時に気が付いていたけど、カーテン丈、ちょっと短いのよ。
 でも、まさか隙間から覗く人なんて居ないだろうし、大丈夫だろう。

 こんな感じで、車中泊の始まりは順風満帆に思えた。
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