恋愛期間0。彼の毒はスイーツより甘かった。(仮)
「おー、ねぇちゃん」

 トイレ奥から、年配の男性が歩み寄ってきた。お酒だけじゃない、違う悪臭が鼻をつく。

「あの車で寝泊まりしてんのか?」

 答えたくなかった。きっと眠っている間に覗かれていたに違いない。
 明日、ホームセンターに行って目隠し対策しなきゃ。いや、今から行こう。
 車のキーを取り出した私の手を、オジサンがいきなり掴んだ。

「キャッ……!」「無視すんじゃねぇー」

 何とか振り払ったものの、腱鞘炎を患っていた箇所に激しい痛みが走る。
 オジサンを押し退け、急いで車に乗り込んだ。

「おいっ、開けろっ! 舐めた態度取りやがって!」

 怖さで、身体が震える。
 ロックはしたものの、手首が痛くてエンジンを回せない。回せたとしても、ハンドルを切る自信が無かった。
 老人とは思えぬ力でドアに体当たりしてくるから、恐怖が増した。

「け、警察……」

 警察って呼んだら色々聞かれるのかな。
 何でこんな所に車を停めてたのか尋問される?
 住所不特定って罪?
 パニクって、スマホのダイヤルボタンが押せなくなっていた。
 そんな私の目に飛び込んで来たのは、塩田の名刺――

 藁をも掴む思いで、記載されている携帯番号に電話した。

「お前も似たようなモンだろうが! お前も直ぐにこっち側になるんだよ!」

 その間、車の外からは、耳と胸を裂くような罵声が続いていた。


< 17 / 65 >

この作品をシェア

pagetop