恋愛期間0。彼の毒はスイーツより甘かった。(仮)
 小さく会釈をした高部さんの髪が、胸元でクリンとはねていた。それを弄る彼女の爪は、ラメ入りジェルネイルでキラキラしている。

「……シェフ、ですか?」

 明らかに私の声は動揺していた。

「そう。岩田くん、腰椎椎間板ヘルニア悪化したらしく暫く来れないんだって」

 それは工房の皆が周知している。
 岩田シェフが休んでる間、「俺が居ない間宜しくな」と連絡が来て皆で協力し合っていたのだから。

「……高部さんは、どちらで働かれていたんですか?」

 他店舗の工房でも見かけた事のない、職人ぽくないイデタチの彼女。

「あ、私は、」

 と隣を見上げ、助けを求めるような目をした彼女の代わりに社長が喋った。

「高部さんは2年前に金融機関を辞めて、銀座の梅屋地下で店長してたんだよ」
「それじゃ、製造の経験は――……」
「ないです。飾り付けと梱包の手伝いならあるけど」

 つらっと答えた高部さんに、私は絶句した。

「仕込みだとか生地やクリーム作りとか彼女は無理だから、工房内のマネージメントをメインにして貰うつもり。唐津くんは今まで以上にテキパキやってくれないとな」

 言葉がまとまらない私の肩を、社長が割と強めに叩いた。

「唐津くんは男並みに身長も体力もあるから頼りにしてる」

 ないよ!
 背は164cmで一般的だし、長年酷使してきた身体はあちこち悲鳴を上げている。

「紹介も終わったし、昼飯でも食いに行こうか」

 呆然とする私を置いて、社長は高部さんの肩を抱いて行ってしまった。それを見て思ったことは……。

――あの2人、デキてるんじゃないの?















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