恋愛期間0。彼の毒はスイーツより甘かった。(仮)
「犬ってなんだよ」

 塩田が子供みたいに笑った。
 彼がこんな風に笑うのを初めて見た気がした。

 数週間一緒に旅してきたけれど、関係はあくまでクリエイターと被写体であって、遠慮や緊張はなくとも見えない境界線がしっかり引かれていた。

 ……そっか。
 そういう事か。

 私は気を逸らすように、仕事ではあり得ないくらい散漫に喋りながらスフレケーキに挑んだ。

「おい、声入った所、編集するの俺だぞ」

 流石に塩田が注意してきた。

「もう、いいよ、声入っても」
「は?」

 もう、バレたっていいや。

 顔出しはしたくないけど、声で知り合いに分かってもいい。
 どうせ、撮影も終わるし――
 ヤケクソのつもりはなかったが、油の量を間違えたのか、それともパンに水が入ってしまったのか、ボォっと音を立てて、焚き火の炎が高く広がった。

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