君の事好きになっても良いですか?

*瑠斗*

廊下に出た瞬間、
胸の奥に溜めていた息を、
一気に吐き出した。

やっ……やばい……緊張した。

足が少しだけ、震えている。

何やってんだよ俺……。

手のひらを見ると、
気づかないうちに汗ばんでいた。
相当緊張してたんだ……。


でも、逃げなかった。
それは自分で褒めて良いよな?

それだけで、今日は十分だと思いたかった。

階段を下りながら、
さっきの光景が何度も頭に浮かぶ。

琴音先輩の、驚いた顔。
すぐに柔らかくなる声。

マジで琴音先輩、優しいな。

バイトの時と同じだ……。

それだけで、胸が温かくなる。

でも、その温度の奥に、
はっきりした「線」があった。

俺は、後輩で彼氏じゃないし
幼なじみでもない。

ただのバイトの後輩、学校の後輩。

篠崎晃先輩の視線を思い出す。


あの人……怖かった。
悪い人ではないと思うけれど、
あの目で見られると恐縮してしまう。

まぁ……先輩も怒ってるというより、
俺に”取られる”ことへの焦りなんだと
思う。

先輩も、琴音先輩のこと好きなんだなぁ。
胸が、少しだけ重くなる。

俺、踏み込んでいいのかな……。

一瞬、そう思った。

でも……。

踏み込まないなら、
最初から好きになるなよ。

自分に言い聞かせる。

彼氏がいるって知ってた。

それでも、好きになった。

それは、誰にも責められないはずだと、
必死に信じようとする。

廊下の窓から、校庭が見えた。

昼休みのざわめき。
何も知らない顔で笑う生徒たち。

俺だけが浮いてる気がする。

恋って、こんなに落ち着かないんだ……。

拳を軽く握る。

琴音先輩は、俺の気持ち知ってるのかな。

”琴音先輩の顔見たかった”
あの言葉で、全部伝わったとは思っていない。

でも、少しは……少しくらいは
意識してくれたらいいなぁ。

その願いが、
自分勝手だと分かっていても、
どうしても消えない。

教室に戻ると、
友達が声をかけてくる。

「瑠斗が戻ってきた!」


「どうだった?」

「まぁ……普通。」

「普通ってなんだよ(笑)」

そう答えた自分が、少し大人ぶって見えた。

強がってるだけだった。

席に座り、机に突っ伏す。

これで終わりじゃない……

終わらせたくない……。

でも同時に、
どこかで分かっている。

ちゃんと終わらせないと、前に進めない。

その覚悟が、
この時すでに、心の奥で芽生えていた。


瑠斗 side 終わり
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